DTMerとしてラウドネスノーマライゼーションにどう対応すべきか?

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loudnessmater

2020年1月29日より、ニコニコ動画でもラウドネスノーマライゼーションが適用されるようになりました。(スマホから視聴の場合はまだ適用されていないらしい)

その影響もあってか、界隈でその話題をよく耳にすることが増えた気がします。

そこで良い機会なので、今回はそのラウドネスノーマライゼーションについてかなりざっくりとした解説と対応についてお話してみたいと思います。

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ラウドネスノーマライゼーション(ラウドネス正規化)とは?

巷では、ラウドネスノーマライゼーションを「ラウドネス等化」や「ラウドネス規制」、言葉の後半を省略して「ラウドネス」などの略称を使っている方もいますが、ここでは「ラウドネス正規化」と略して使っていきます。

“聴感音量”を揃える

ラウドネス正規化は「Youtube」や「Spotify」、そしてつい最近になって「ニコニコ動画」にも導入されるようになりました。

これらのプラットフォームは様々なクリエイターが制作した動画や楽曲を自由に行き来しながら楽しむことができます。

そこで問題となるのが各動画、楽曲の音量レベル差の問題です。音圧マシマシの爆音量のものもあれば、そうでないものもたくさんあります。そうなると各動画や楽曲を行き来するたびに視聴者は音量を適正に調整する必要がでてきます。

めんどくさいですね~。

なので、各コンテンツの”聴感上の音量”を数値化して、それぞれを同じに揃えようぜ!というのがラウドネス正規化の概要です。

ちなみに放送業界において、これはすでに当たり前の概念です。TVを見ているとき、CMが変わるごとにTVの音量を調整しなければいけないほど聴感音量に変化が生じたりしませんよね?これは放送業界では既に-23LUFS/LKFSに揃えられているからなのです。

視聴者側の利便性が上がる

各コンテンツの聴感音量を揃えると何が良いかというと、視聴者側が快適になります。

過去にニコニコ動画で多くのコンテンツを楽しんでいた方は思い出してみてください。再生する動画を変えるたびに音量に大きな差があったり、途中で挟み込んでくる広告が突如として爆音で流れだす、なんて事象に遭遇したことはないですか?そのたびに慌てて手元の音量を変更するなんてことしませんでしたか?

いち視聴者として、これはあまりにも不便です。動画を楽しみたいのに不意にやってくる爆音に対して常に警戒しないといけないのはとても面倒です。

どうせ各視聴者が手元の音量でその都度操作するのなら、自動で各コンテンツの音量が揃っていてくれたほうが便利だと思いませんか?

ラウドネス正規化とは、結局それだけのことだったりするのです。

ラウドネス正規化で起こること

とりあえず体感してみよう

言葉だけの説明では分かり難いと思うので、実際ラウドネス正規化で何が起こるのかを体感してみましょう。

ここではニコニコ動画の-15LUFS/LKFSを基準にします。

さて、自分の曲の中から6曲を適当に選別して、それらを個別にものすごく適当にマスタリングしてみました。それらがもしネット上で連続再生されたらどうなるのか?ラウドネス正規化の有無によってどう変わるのか確認してみましょう。

ラウドネス正規化なしの場合※曲の切り替わり時に爆音注意)

ラウドネス正規化ありの場合

いかがでしょうか?

これはかなり極端にしていますが、ラウドネス正規化が導入される前はいろいろと大変な状態にあることがわかるかと思います。

詳しくみてみよう

さて、上の音源が具体的にどのようになっているのかをこれから順に説明していきます。

まず楽曲の各波形から確認してみましょう。

LN_off_wave

上から順番に音源の1~6曲目を並べています。

2曲目、5曲目は明らかな海苔波形、6曲目は前半に多少の余裕があるようにも見えますが、よく見るとリミッターによってピークが削ぎ落されているのがわかりますね。

では次に各曲のRMSとLUFSを比較してましょう。

RMSはおおよその数値になります。

LN_off_ichiran

見事にバラバラですね。

単純に楽曲を並べただけならこれらの差が顕著に現れてしまいます。

ではラウドネス正規化とやらを適用してみましょう。

“IntegratedLoudness”を全曲-15LUFSに揃えます。

metrica_tx

LN_on_wave_tx

LN_on_ichiran

こうやって視覚的に波形を確認すると海苔波形の音源が心配になるくらい細くなっているのがわかるかと思います。これを踏まえて上のラウドネス正規化ありの音源を改めて聴いてみると、海苔波形になっている曲がいまいち抜けてこなかった要因も想像できるのではないでしょうか。

とはいえ、これによってすべての音源の聴感上の音量が揃いました。突発的な爆音に注意する必要がなくなりましたね。

ちなみに、「すべて-15LUFSに揃えた」なんて言ってますが、数値一覧の通り1曲目に関しては何も手を加えていません。

その理由は、ラウドネス正規化の処理が入るのは、基準値を超えるもの(ここでは-15LUFS)だけだからです。1曲目は-15.3LUFSと、そもそも-15LUFSに届いていませんね。ラウドネス正規化は基準値以下のものに対して、わざわざ基準値まで持ち上げるような処理をすることはないのです。

さて、ここで気になるのはこれらの音源の”IntegratedLoudness”を具体的にどのようにして-15LUFSに揃えたのか?ではないでしょうか。

上の画像をよく見ればすぐわかるかとは思いますが、手を加えた内容は「ただフェーダー(音量)を下げただけ」です。

LN_on_fader_tx

海苔波形曲はかなりフェーダーが下げられてますね。5曲目なんて10dB以上下げられています。

ここで注目すべきなのは一切コンプやEQ等を使っていないこと。これはYoutubeやニコニコ動画のラウドネス正規化でも同じです。

ラウドネス正規化によって「音が悪くなった」「変な処理すんなよ」という声をよく耳にしますが、それはすなわち単にフェーダーを下げただけで音が悪くなる音源だったというだけの話。辛辣に言えば、元から音が悪かっただけです。

上の例では5曲目のものが完全にそれにあたりますね。

ラウドネス正規化なしの場合、その爆音さで「なんか良い感じかも」と思えても、聴感音量を他と揃えて比較したら顕著に音が歪んでいる点に気づくかと思います。(まぁ揃えなくても盛大に歪んでるのはわかりますがねw)

過度なリミッター、マキシマイザーの使用はこういった弊害を引き起こす場合があります。とはいえ、最近のリミッター、マキシマイザーはかなり優秀なので、そう簡単に歪みが表面化することはないかも知れません。しかし、たとえ歪まなくても上のように比較してみると失われている何かがあることに気づくかと思います。

投稿者側としての対応の仕方

「じゃあ、ワイらクリエイターはどないすればええねん」と思うかもしれませんが、結論から言うと、

「自分がカッコいい、最高だと思う音を追求すればいい」

ただそれだけです。

この結論に至るまでの過程を大きく省略しているので、わけのわからない人も多いかもしれませんが、結局のところはここに落ち着くのではないかと私は考えます。

ラウドネス正規化がなかったときは、多少音質を犠牲にして音圧を上げてもそれ相応のメリットがありました。デカい音は良い音だと錯覚するし、それによって誰かの目にとまりやすくなります。

しかし、ラウドネス正規化によって各楽曲の聴感音量が揃えられるようになったいま、他人より著しく大きな音にすることはできません。必死に音質を犠牲にして音圧を稼いでも、そのぶんラウドネス正規化で音量を下げられる。結果、上の例の5曲目のように音質最悪な楽曲が生まれることになりかねません。(私のミックスの腕に関しては目を瞑ってくださいな)

ただ誤解してはいけないのは、たとえラウドネス正規化があったとしても音圧マシマシにするという選択をしても良いのです。あなたが「音圧稼いだ音のほうがカッコいいじゃん」と思うなら、それを貫いて良いのです。海苔波形の、あの独特の窮屈な音でこそカッコ良く映える音楽だってあることでしょう。

最も愚かなのは他人よりデカい音で聴かせたい”為だけ”「海苔波形にするんやー!」という行為です。先ほど説明した通り、ラウドネス正規化が適用されている環境ではほぼ意味を成しませんし、そもそも全くクリエイティブでないと思いませんか?

下記のGodspeed氏の言葉をお借りしますが、言い換えるとラウドネス正規化によって私たちクリエイターは余計なことを考えなくて済むようになったとも言えるのです。

より詳しく知りたいなら

より詳しくラウドネス正規化の対応について知りたいなら下の動画の視聴をおすすめします。

そしてさらに専門的に詳しく知りたいなら、この動画の最後にも紹介されているDavid Shimamoto̪氏の書籍「とーくばっく~デジタル・スタジオの話~」をご覧になると良いでしょう。

私なんかの説明より、この2つを参考にするほうが正確だろうし、理解できるかと思います。

私がラウドネス正規化について学んだのはこの書籍です。

また、音楽制作をするうえで知っておいたほうが良い知識もたくさん詰まってますのでDTMerなら持っていて損はないでしょう。

まとめ

ラウドネス正規化についてお話してみましたがいかがだったでしょうか?

ニコニコ動画で導入が始まり、耳にする機会も増えて「どうしたらいいの?」と不安になっていた方にとって、ちょっとして解決のヒントとなれれば幸いです。

「やっぱりよくわからん」という方は、とりあえず純粋に良い作品を作ることに注力すれば良いと思います。ラウドネス正規化が原因で、あなたの楽曲や動画の音が悪くなったり、逆に良くなったりすることはありませんので、変にあれこれと考える必要はないです。

とはいえこれからの時代、知識としてちゃんとラウドネス正規化について知っておくことは重要だと思うので、上のような書籍等でちゃんと勉強するに越したことはないでしょうね。

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