メイキング記事、第10回目です。ついに2桁に突入しましたね。
前回は作詞についてでしたが、今回はその歌詞を初音ミクに上手に歌ってもらうべく、本格的な調声作業に入っていきます。
これまでの記事はこちらから↓
進捗状況
作曲下準備作曲編曲レコーディング(Gtのみ)作詞- ボカロ調声←(いまここ)
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投稿までようやく折り返し地点を越えました。
残り半分、頑張っていきたいところです。
前回で作詞を終え、その歌詞をボカロに流し込み、雑ですがとりあえず歌わせるところまで完了しました。その音源を確認しておきましょう。
この状態から、もっと滑らかな歌唱にすべく手を尽くしていきます。
はじめに
前回でも少し触れたように、使用するのは「VOCALOID4 Editer」と「初音ミクV3(オリジナル)」です。
調声の解説に関しては各セクション事細かにやっているとさすがに非常識なボリューム(かつ、同じような処理ばかり)になってしまうので、私の調声の基本処理を先に解説したのち、特殊なことをした部分だけピックアップしていきます。
そして本格的な調声に入る前の注意点として、これ以降の調声は特別な理由がない限り歌詞入力は必ずローマ字入力で行います。
これは仕様上の問題です。
例えば、ひらがなで「お」と「を」を入力するとまったく同じ発音をするのですが、「o」と「wo」だと違う発音になります。ようはローマ字で入力するほうが、発音のバリエーションを増やせるのです。
また、ローマ字入力していったほうがEnter、Tabキーを押す回数が激減します。作業効率の上でもローマ字入力はかなり便利なのです。
基本処理の3本柱
私がボカロ調声を行う際は主となる基本処理が3つありその基本処理を全体に適用して調声を進めていくことになります。
その基本処理の3本柱が以下になります。
- 母音・子音分割
- 子音の長さ調整(VEL調整)
- アクセント調整
1.母音・子音分割
ボカロをある程度使ったことのある方なら馴染みのあるテクニックかと思います。
私はこの母音・子音分割を大きく分けて5パターン駆使して調声しています。
例として下のように「ドレミファソー」と歌わせたものを例に解説していきます。プレーンな状態だとこのような感じです。
●パターン1(2音分割・子音低)
まず一つ目がこちら。
単純に子音と母音を2音で分割し、子音を目的の音程より低音に配置するパターンです。人間の歌い出しの感じに結構近くなります。
ヌルっとした音の立ち上がりになるので、多用しすぎると気怠い感じの歌い方になってしまうので注意です。
●パターン2(2音分割・子音高)
パターン1の子音を目的の音程より高く配置したパターンです。
多用しすぎると、この例のようにアホっぽいというか幼稚な感じなってしまうので、使用頻度は決して高くないですが、部分的に使える部分があったりします。
●パターン3(3音分割・子音同)
私がもっとも多用するパターンです。
子音1音と母音2音の計3音に分割するパターンの1つ目。子音は目的の音程と同じに配置します。
このような3分割パターンにおける真ん中の母音はどのパターンにおいても必ず目的の音程より低く設定します。(私は画像のように1音低くすることが多いです)
●パターン4(3音分割・子音低)
3音分割で子音を目的の音程より低く、中間の母音より高くしたパターン。
パターン1と同様で歌い出しに近い感じになるのですが、こちらのほうがハキハキした歌い方になります。なので、テンポが遅ければ1パターン目を、テンポの速い曲なら4パターン目を、という使い分けをしていたりしていなかったり。
●パターン5(3音分割・子音高)
3音分割で子音を目的の音程より高くしたパターン。ハイトーンで力んだ感じを出すときに多用します。かなり癖があるので、ここぞという部分に使うと効果的です。
上では子音を目的の音程より1音高くしていますが、それと同じくらい真ん中の母音を低くしてやるのがポイント。もし子音を2音高くしたなら真ん中の母音も目的の音程より2音ほど低くする、といった感じです。(下はその例です)
このように音程差を広げるとさらに癖が強烈になりますが、それが良い感じにハマる場面も多々あります。
これら5パターンの母音・子音分割をうまく使い分ければ、私の調声の8割はコピーできるはずです。私の調声テクニックはほぼこれがすべてといっても過言ではないでしょう。逆を言えば、それくらいしかしてないわけですが。
ちなみに、ここでは母音部分をすべて「a、i、u、e、o」にしていますが「ー(長音)」を使用して分割することも多々あります。その場合、また少し違った歌い方になるのでそのあたりはトライ&エラーで試してみるといいです。個人的な意見ですが「ー」を使うと、硬い感じの歌い方になり、ある意味でボカロっぽい感じになるかなと思います。
2.子音の長さ調整(VEL調整)
勘違いしている人がたまにいるのですが、ボカロにおけるVEL(ベロシティ)はDAW上のベロシティとは意味合いが全く異なり、音の強弱ではなく子音の長さをコントロールするパラメータです。
ここでは例として「あしたまた会おう~」とでも歌わせてみましょう。(既に軽く調声しています)
VELデフォルトだとこんな感じです。
ではVELを全音最小にしてみましょう。
「し」「た」「ま」の発音が顕著に変化しているのが分かるかと思います。「し」は発音前に大きな歯擦音が入り、「た」は「った~」、「ま」は「んま~」という感じに変化しています。上の例ではそれらを過度に強調しているため、1音1音無駄にハッキリ発音するような歌い方になるわけです。ここまでやると、もはや歌詞そのものが変化しちゃってますね(笑)
対照的に最後の「会おう」の部分だけはまったく変化がありません。当然ですが、このワードには子音が含まれていないので変化のしようがないのです。
では逆にVELを最大にしてみましょう。
音の繋がりは良くなりましたが、子音成分が少なくなり舌足らずな感じになりました。
これらの変化を適材適所に狙って処理し、滑舌の良い歌唱を目指していきます。
滑舌の悪い歌は音程の悪い歌と同等に聞くに堪えないものです。ボカロは音程は良いですが、滑舌は注意しないとかなり怪しくなるので、VELは注意して調整すべきポイントだと思います。
VELで大きく発音が変わるのは主に「さ行」「た行」「ま行」です。これらの音がVELでどう発音が変わるかを把握していると滑舌の問題はかなり解決してくると思います。
3.アクセント調整
3つ目は各ノートの「表情コントロールプロパティ」から調整できる「アクセント」です。
発音の強さをDYNを突いて調整する人も多いかと思いますが、その前にこのアクセントを試してみること個人的にはお勧めします。
上記二つに比べると地味な変化しかありませんが、これはこれで積み重ねると結構違いがでるものです。
例として、上のVELでのフレーズをまた使って「あしたまた会おう~」という感じにしてみました。(大文字でアクセント100%に、それ以外を0%に設定)
この例では変化をわかりやすくするために、デフォルトの50%から下げる方向にも使いましたが、実践では下げる方向に調整することはあまりありません。(私の場合はですが)
発音が弱くて不明瞭な部分や、歌詞において「ここぞ」というフレーズを強調する方向で調整することがほとんどです。ボカロは往々にして発音が弱い傾向にあるので、強調方向に調整することのほうが圧倒的に多いのです。
また母音・子音分割した音に関しては「ここは子音だけ強調」「ここは母音を強めに」みたいな細かい調整をすることが可能になります。DYNで子音部分だけを強調しようとすると、不要な部分まで持ち上げてしまうことがありますが、この手法ならそんな面倒なことにはなりません。(そのぶん頻繁にクリックしないといけないのが面倒ですが…)
以上が私の基本的な調声の3本柱になります。
ということで、実際の曲のほうにこれらの処理を施したのでその音源を聴いてみましょう。
いかがしょうか?
既に部分的な応用テクニックも使用していますが、大半はこの3つの処理で出来上がっています。
あと話が変わりますが、ちゃっかり歌詞も変更しました。
変更箇所は2カ所あります。
1番サビ「少し浮かれていても」→「少し期待してても」に変更し、イントロと揃えるようにしました。
もう1カ所はラストのサビ「終業ベル 合図に 全力で」→「終業ベル 合図にして 全力で」に変更して、文字数を増やしました。
応用テクニック
次は、上の3つでは処理しきれなかった部分の解決方法や応用テクニックについて解説していきます。
さらにノート分割
私は3音分割をメインに使うのですが、それ以上に音を分割して、あえて音の立ち上がりの音程を揺らすテクニックをよく使います。具体的には下のような感じです。
人間の歌唱でも、こういった歌いまわしを聴いたことがないでしょうか?
ただ、多用しすぎるとかなり鬱陶しくなるので使用するタイミングには気を付けています。
無声化
無声化とは声帯を振動させずに息成分だけで発音する方法で、滑舌において重要な要素の一つです。
例を挙げると「~です」の「す」や「くさ」の「く」などがそうです。
曲中で特にわかりやすいのは以下だと思います。
「おなじ」の「じ」を無声化しています。
この記事の「進捗状況」に貼ってある未調声音源で同部分(2番Bメロ)を聴けばすぐにわかると思いますが、この「じ」を普通に発音させるとものすごくダサいです(笑)
肝心の無声化させる方法は発音記号の最後に「_0」を追加することです。
Altキーを押しながらノートをダブルクリックすると、上のように発音記号入力欄が開くのでそこに「_0」を入力します。
無声化は人間なら無意識に制御できるぶん、ここを外すと強烈な違和感になります。なのでリアルな調声を目指すなら、このテクニックは覚えていたほうが良いでしょう。
「i」を「hi」に
本来なら「い(i)」と発音させるところを「ひ(hi)」と発音させているところがあります。
それも数カ所ではなく至る所で。(気づきましたかね?)
実は各サビの「いいよね?」の部分はすべて「ひいよね?」と歌わせています。
このようなアカペラだと、さすがにわかってしまいますね(笑)
プロのシンガーでも「い」を「ひ」寄りに発音する人は結構います。
利点としては「ひ」と発音させると息成分が付加されるぶん、発音の強さが補えると同時に疾走感も出てきます。
発音としては完全な間違いですが、歌唱としてはこちらのほうがハマることもあるので、普通に「い」と発音させて物足りないようなら「ひ」と発音させてみるのもアリだと思います。
オケに混ざれば、意外とわからないものです。
「n」を「u+n」に
歌において「ん(n)」の発音はなかなかに曲者です。「ん」を曲中でキレイにハッキリ発音できるボーカルは本物だと個人的に思っています。
ボカロの場合は「ん」の発音そのものはキレイなのですが、いかんせん発音が弱くオケに埋もれて聞き取りにくくなりがちです。なので、これまた発音としては間違いですが直前に短く「う(u)」を付け足してみます。
オケがないと少々怪しい発音には感じますが、発音の弱さを少しだけ補うことができます。
すべての「ん」をこのように処理するわけではないですが、こうしたほうが「ん」として聞き取りやすくなるケースは多いので積極的に試してみるテクニックの一つです。
「sho」を「shi+o」に
これはおそらく、ボカロの歌声ライブラリによって差異が大きいと思われます。
今回使用している初音ミクは「しょ(sho)」の発音が致命的に甘いです。
なので、短い「し(shi)」と「お(o)」を組み合わせて、なんとか「しょ」に聞こえるように対処しました。
変則的な入力ではありますが、普通に「しょ」と発音させるより断然良くなったかと思います。
母音分割の「o」を「wo」に
なんというか言葉では少々説明しずらいので、もう下の画像を見て察してください(笑)
本来なら母音・子音分割で「no+o+o」とするところを「no+o+wo」としています。
これは母音の「o」が不自然に小さくなってしまうことへの対処です。「-」を使って分割してみても同じように不自然になってしまったので、代わりに「wo」を挟み込んで無理やり子音を含む文字を発音させることで小さくなる問題を矯正しました。
しかし、そのままだと「w」の子音が気になってしまうので、VELを上げたり、アクセントを下げたりして極力目立たないようにしています。オケがないとかろうじて「w」の発音がわかりますが、オケに混ざってしまえばこれまたわからなくなるでしょう。
基本的には矯正のために使っているテクニックですが、あえて「wo」をはっきりと発音させている箇所もあったりします。文字の組み合わせによっては何かと応用できるテクニックだと思います。
ディケイの設定
ディケイとは音の減衰を指します。
これは主にロングトーン部分で音の減衰が気になったときにのみ調整します。なので、あまり調整する頻度は高くありません。
ディケイはアクセントと同じく「表情コントロールプロパティ」から調整できます。
数値を大きくすると音の減衰が始まるタイミングが早くなり、数値を小さくすると減衰のタイミングが遅くなり最後までしっかり音を伸ばすようになります。
例えば、1番サビやラストサビ終わりの「走ったー」のロングトーンはしっかりと最後まで伸ばしてもらいたいので、このディケイを0%に設定しています。
その他諸々の調声
ここまでの調声でかなり聴けるようにはなりましたが、ここからもう少し装飾していきます。
ビブラート
前回の記事で「最終的にはほぼすべての音にビブラートをかけることにはなる」と言っていたのはこれです。
下の画像のように、短い音も含めほぼすべての音にビブラートをかけていきます。
このビブラートの目的は2つあり、1つ目は言葉通りビブラートをかけること。2つ目は人間らしいイレギュラーなピッチの揺れを出すためです。
短い音にビブラートを設定しても「ビブラートしてる」とは感じにくいですが、多少はピッチに動きが生まれます。それを利用して、キレイすぎるピッチラインを少し汚していくのです。
また、このビブラートを設定しておくとディケイの数値を小さくするのと同じように、ノートの切れ際まで音を伸ばしきるようになる効果が若干ですが出てきます。そのため、最終的な発音も結構変わってくるのです。
ビブラート長は大体50%~80%くらい、ビブラートの種類は「Fast Type2」を使うことが私は多いです。
もちろんですが、ビブラートをかけたくない音に関してはそれが感じられないくらいにビブラート長を短くして対処しています。
POR
次はPOR(ポルタメントタイミング)を調整します。
調整するといっても細かくオートメーションを書くことはせず、全セクション通して同じ数値に固定します。
PORの数値を変えると、歌唱のスピード感というかノリが結構変わります。その曲においてベストだと思うところを探って設定します。
個人的には数値を下げ気味にしたほうが好みの感じになります。
今回は「46」に設定してみました。
BRI
各セクションごとにBRI(ブライトネス)の数値を少し変動させます。
「サビは盛り上がるから少し上げ目に」「静かなところは少し下げよう」みたいな感じです。
BRIは声の明るさを調整するパラメーターですが音量も結構変化します。私の場合、これを利用して、各セクションのテンション感や抑揚みたいなものを調整します。
GEN
最後にGEN(ジェンダーファクター)で声のキャラクターを決めます。
これもPORと同じく特別なことがない限り全セクション固定です。
ミクの場合、私は40~50あたりの数値の声が好きなので、そのあたりを探って決定します。
ここでは「42」にしてみました。
これでメイントラックの調整がすべて終了です。
では、その成果を聴いてみましょう。
自分で言うのもなんですが、今回の調声はなかなかの出来栄えになった気がします。
コーラストラック調声
さて、次はずっと棚に上げていたコーラスに取り掛かります。
ここまでのメイントラック調声が仕上がったなら、作業は非常に簡単です。
まず調声したメイントラックを複製します。
そして、始めに作成していたコーラスラインに合わせてノートをずらすだけです。これまでの画像にも、そのデータが透過で表示されていましたね。
その際、コーラストラックのパラメータの一部を初期値に戻したり変更したりして、メイントラックとの差別化を図ります。
具体的には、コーラストラックのBRI、GENはすべて初期値に戻し、PORは「54」に変更しました。
そうやって作成したコーラスラインがこちら。
メイントラックもオケも混ぜて、最終的にはこのような感じになりました。
「コーラスいらないかもな」という部分も念のため書き出してますが、最終的に削ってしまう部分も多そうです。後から「やっぱりあったほうが良かったな」となった場合、何かと面倒になりますので。
まとめ
メイキングというか、わりとガチな調声講座になってしまいましたね(笑)
あくまで私個人の調声テクニックなので違和感を感じるものも多いことでしょう。ひとそれぞれに拘りがあるはずなので、参考程度にとどめて自分のやり方を追求していくのが良いと思います。
私のようなリアル志向の調声を目指す場合は、実際のボーカルを参考にし、そのテクニックを学ぶのが一番の近道です。その点ではボイトレ系の動画は結構参考になるので、勉強がてら見てみるのも良いかもしれません。
さて、これで全素材が揃ったので、次回は全DTMer悩みの種、ミックスに入っていきます。
まぁ、私も例に漏れずミックスが苦手DTMerなので過度な期待はしないでほしいのですが、頑張ってみます。