ボカロ曲の制作過程全てを解説していく連載、第4回目です。
今回は、これまでに作成してきた各トラックの音源やエフェクトの設定について解説していきたいと思います。
これまでの記事はこちらからどうぞ↓
前回のおさらい
前回でサビだけはほぼ完成というところまで制作を進めました。まずはその成果を確認しておきましょう。
・前回までの成果
今回はこの音源で使用されている全トラックの設定について解説していきます。
現段階での全トラック状況
まず全体の状況を見渡すために、現在のDAW編集画面がどうなっているかを紹介しておきます。
それなりのトラック数ありますが、ドラムを各ピースでパラアウトしているだけなのでそれらが大半を占めています。ほとんどがAUXトラックというわけですね。
仮シンセメロ解説
まず仮メロで使っているシンセから紹介しておきます。
使っている音源はProtools標準装備の「AIR Instruments」の「Vacuum」です。
「Vacuum “Pro”」のほうも持っているのですが、あえて無印のほうを使っているのは”ベロシティ非対応”だからです。非対応と言うとネガティブな印象を受けますが、仮メロを打ち込むのにおいてベロシティの有無はあまり重要ではありません。
逆にベロシティ対応だと、私のような致命的に鍵盤演奏が下手な人間の場合、滅茶苦茶なベロシティが反映された仮メロを聴き続けなければいけなくなります。(メロの打ち込みもリアルタイム入力でやってるので)
モノフォニックなので2音以上重ならない点も、ここでは利点になりますね。
具体的な設定としては
- オシレーター1をTRIにして、オシレーター2はOFFに
- ADSRを調整
という感じです。
テンポや曲調によってリリースタイムを微調整したりしますが、それ以外大したことはしていません。あくまで仮のシンセですからね。
ドラムトラック解説
ここからが本題です。
以前にも少し触れましたが、ドラムで使用している音源は「BFD3」です。

今回の曲では「MODERN RETRO」「ZILDJIAN DIGITAL VAULT VOL.1」というエクスパンションパックに収録されている音を組み合わせて使用しています。皮もの系は「MODERN RETRO」でシンバル系は「ZILDJIAN DIGITAL VAULT VOL.1」という感じです。
BFD3標準の音は気付けば選んでいませんでしたね。
キック
キックは「Tama Starcalssic Hole Loose Kick Felt」というもの採用しています。
このキックに行った具体的な設定は以下の通りです。
- 「Damping」を調整(ミュート具合の調整)
- 「Atticulations」の「Vel to Pitch」を少し上げる
- 「Tom Resonance」をオンにし、その音量を調整
- 全マイクをパラアウトでDAWのAUXトラックに送る
- DAW上で各マイクの音量バランスを調整して音作り
まずはじめにキックのサステインが長すぎたので、それを調整しました。これは「Damping」というパラメーターから調整できます。これはいわば、本物のドラムで言うところの「ミュート」に該当する部分です。ここでちょうど良い響きの長さになるように調整しました。
ちなみに、このDamping調整での音の変化も考慮してこのキックの音を選びました。
次に「Vel to Pitch」というつまみを調整します。
実際にドラムに触れたことがある方は想像できると思いますが、キックやスネア、タムなどの皮もの系は強く叩くほど、若干ですがピッチが上がります。このつまみを調整することによって、そういった叩く強弱に応じて生じるピッチの揺れを再現することができるのです。
このつまみを大きく動かし過ぎると、ベロシティに対してあからさまにピッチが変わるようになるので自然な変化になるよう調整します。
次は「Tom Resonance」をオンにしました。これはタムの共振を再現できるパラメーターでBFD3の強みのひとつですね。
本物のドラムはどれか1のピースを叩いただけでも、他のピースも共振して一緒に鳴ってしまうものです。そういった余分な音も含めてドラムのサウンドは構築されているんですよね。なので、より生ドラムに近づける場合にはこの「Tom Resonance」を活用すると非常に効果的なのです。
しかし、ドラムの各ピースが分離したようなサウンドを目指す場合には逆効果になるので、使わないほうがよいでしょう。
ちなみに、このキックの「Tom Resonance」をオンにすると、右のつまみ部分の「Spill Trim」の音が非常に耳障りなるので、マイナス方向にほぼ振り切っています。
あとはキックの各マイクの音をそのままDAWに送り、音量バランスで音作りしました。このキックは4本ものマイクを使って収録されているので、音量バランスだけでもいろいろな音を作ることができます。
私はミックス段階までフェーダーは0にキープしておきたい人間なので、Protoolsの「Trim」という純粋にボリュームだけを調整できるプラグインを使って音量調整をしています。画像ではフェーダーが全く動いていませんが、ちゃんと音量の調整をしてあります。
そして、出来上がったキック単体の音がこちらです。
・キック
キック全体の音量はマスタートラックのピークメータでだいたい「-6~-5dB」になるよう調整しています。これを基準にして他の音も混ぜていけば、最終的に全トラック含め良い感じの音量に収まります。
ちなみにEQやコンプ等は他のドラムトラック含め、まだ一切使っていません。そのあたりはもう少しアレンジが進んでから行っていこうと考えています。
スネア
スネアは「MODERN RETRO」に収録されている「Sonor Desiner 1997 14×6.5 Snare Stick」というものを使用しています。
このスネアで施した処理は以下の通りです。
- 「Damping」を調整(ミュート具合の調整)
- 「Atticulations」の「Vel to Pitch」をほんの少し上げる
- 「Tuning」でピッチを調整
- 「Tom Resonance」をオンにし、その音量を調整
- 全マイクをパラアウトでDAWのAUXトラックに送る
- DAW上で各マイクの音量バランスを調整して音作り
基本的にキックと同じようなことをしていますが、唯一違うのは「3」のチューニングですね。
スネアはピッチの高さでかなり印象が変わるので、必ずここで調整を行います。「2」の「Vel to Pitch」の影響もありデフォルトから必ず音程が変わってしまうので、「2」の処理を行ったならこの調整は必須になってきますね。
今回はデフォルトの状態から少しピッチを下げています。
ちなみにキックでは、特に必要ないかなと思いチューニングの調整はしませんでした。
このスネアは「トップ」と「ボトム」の2つのマイクで収録されており、キックと同様DAW上で音量バランスだけを調整しました。バランスとしては、リムショット時にトップとボトム両者が同じくらいのピークレベルになるよう調整しています。
一緒にキックの音が入っているのは、所謂「かぶり」というやつです。BFD上の設定でこのキックのかぶりを切ることもできるのですが、生ドラム感を出すためにこのままでいきます。
スネアの音量はキックと同じくらいかそれより少し小さいくらいにすると、ちょうどいい感じになると思います。
・スネア
タム
タムはハイ~フロアまで「Tama Starcalssic」シリーズのもので揃えています。
それぞれ違う種類のタムを使用してセットを作ることもできるわけですが、特別な理由が無い限りは統一感をもたせたいのでタムの種類は揃えるようにしています。
画像では無駄に5つも読み込んでいますが、実際に使用するタムは3つほどに絞ります。そして、最終的に使用していないタムは削除します。
タムに施した処理もスネアとほぼ一緒なので、多少違う部分のみ触れておきます。
BFDの場合、タムは具体的な音程を表示してくれます。(A2、C3など)そのため、極力その曲のKeyで使われる音程に合わせつつ、タム自体の響きが良くなるようチューニングしています。(一部、音程を表示してくれないタムもありますが…)
そして、パン振り。
タムのパンに関しては、私はいつも左右50以内に全てのタムが収まるように調整することが多いですね。
・タム
タムの音量はスネアより大きめ、キックより気持ち小さめくらいに調整してあります。
フィルインでしっかり目立つくらいの音量は最低限キープしたいところ。
ハイハット
ハイハットは「ZILDJIAN DIGITAL VAULT VOL.1」に収録されている「14 K Light Stick」を使用しています。
ハイハットで行ったことは非常にシンプルで
- ボリュームの調整
- パンの調整
これだけです。
ハイハットもパラアウトでDAWに送り、音量を調整。
パンに関しては、オーディエンス視点のドラム配置にしようと思っているので、ハイハットは少し右よりから鳴るようにしています。具体的には、右側20に振っています。
・ハイハット
ハイハットは注意しないとかなり耳障りになるので、少し小さめを心がけて音量を決めています。この後に解説するオーバーヘッドでもハイハットはかなりの音量で入っているので、それも考慮しています。
オーバーヘッド
続いてオーバーヘッドです。
このオーバーヘッドはドラム全体の響き兼シンバルトラックとして使用します。なので、各シンバルを個々にしてトラックを作成することはしません。
このようにしている理由は単純で、生ドラムのレコーディングでもそのようになっていることが多いからです。オーベーヘッドマイクとクラッシュ等はかなり距離が近くなるので必然的にかなり音を拾いますし、そもそもクラッシュを狙ってオーバーヘッドマイクを立てる場合もありますしね。
私の場合、ライドシンバルだけは曲によって音の芯が足りないと感じる場合があるので、念のために単体のトラックを用意してますが、基本的には常にミュートしています。
オーバーヘッドで行ったことはこのような感じです。
- オーバーヘッド内での音量バランス調整
- 他のトラックと混ぜて、オーバーヘッドのボリュームを決定
オーバヘッドマイクにはドラム全体の音が入っており、そのバランスがあまりにも悪いと最終的に良いドラムの音になりません。特に今回はエクスパンションパックを組み合わせたセットになっているので、突出して音が大きいものがあったりします。
実際のレコーディングならマイキングでうまく調整するわけですが、BFDでは各ピースの「Ambient Mics」からオーバーヘッド、その他アンビマイクの音量そのものを調整することができます。この機能を使って、オーバーヘッドの音をまず整えます。
どちらかというと、オーベーヘッドはシンバル系を優位に扱えるトラックにしたいので、シンバル系の音が大きめになるように調整しました。
そして出来上がったオーバーヘッドの音を、これまでに調整したキックやスネアと混ぜていきます。オーバーヘッドの音はドラム全体の迫力にかなり影響を与えますので、少し大きめにするくらいがちょうど良いと思います。(もちろん、どんなサウンドを狙うかによって変わってきますが…)
・オーバーヘッド
その他アンビマイク
BFD3にはオーバーヘッドを除いても、その他アンビマイクの音がたくさん用意されています。はっきり言って多すぎるので「Room」と「Amb3」だけをDAWに送って使っていきます。
これも両方使うかどうかはケースバイケースで、作りながら必要かどうか吟味していきます。
これらの処理もオーバーヘッドと同じです。それぞれのマイク内のバランスをある程度整えたら、他のトラックと混ぜていきます。
・Room
・Amb3
ここまでがサビ制作中、ドラムトラックで行った内容です。
めんどくさそうに見えますが、慣れればそれほど時間はかかりません。EQやコンプでの音作りはまだ一切行っていないですし、そもそも大体の内容はプリセットとしてあらかじめ保存しているので、実際の作業量としてはかなり少ないです。
最後にドラムの全トラック混ぜたものを置いておきます。
・ドラム全体
ベーストラック解説
続いてベースに入っていきます。
ベース音源で使用しているのは定番の「Trilian」です。しかし、単体で使っているわけではなく「Amplitube」のベースアンプと組み合わせて使っています。
TrilianからはDIの音のみを使い、それをセンドでAmplitubeに送りベースアンプに通した音も同時に作ります。
ベースはまとめると以下のようなことを行っています。
- Trilianにて元のベース音色を選択(アンプ音はOFF)
- Amplitubeに移り、ベースアンプを選択
- キャビネットセクションでマイキング調整
- DAW上でDIとアンプ音をミックス
Trilian側では「Stadio Bass」というプリセットを選択し、キースイッチのみ自分の使いやすいようにカスタマイズしています。そして、Trilian側のアンプ音は使わないので、「AMPEG」というつまみをゼロにします。
Amplitube側では、イメージに近いベースアンプモデルを選択します。今回は「Solid State Bass Preamp」というものを選択しました。しかし、それだけだといまいちな感じだったので、下画像の「AMP MODEL」という部分からパワーアンプモデルを変更して、好みの音に近づくようにしました。
今回はクリーンなDIの音とミックスして使うつもりなので、アンプ側ではかなり思いきって歪むようにしています。
次はキャビネットセクションに移ってマイクモデルと位置を調整します。今回は「Dynamic57」と「Dynamic421」というマイクモデルを下の画像のように配置して、半々の割合でブレンドしています。
Amplitubeはこのようにマイキングでかなり音を追い込めるのがお気に入りポイントですね。
最後にDIとアンプの音をミックスして、現状のベースの音になります。
・DI(Trilian)
・アンプ
・DI+アンプ
ピークメーター上では両方ともほぼ同じ音量にそろえていますが、アンプ側の音が歪んで潰れているぶん後ろに引っ込んで、DIのほうが前に出てくるような音作りになっています。
ピアノトラック解説

ピアノトラックは「Ivory2 GrandPianos」の「Stidio C7」です。
このピアノのプラグイン内で行ったことは2つ。
- ダイナミックレンジを少し小さく
- 音の定位を「奏者視点」から「オーディエンス視点」に変更
ピアノを弾かない、弾けない身としては、ピアノのダイナミックレンジ(音の大小の幅)が大きくてもただ持て余すだけなので、低いベロシティの音も少し大きめに聞こえるように調整しました。(擬似的にコンプをかけているようなものですね)
そして、音の定位を「奏者視点」から「オーディエンス視点」に変更しました。つまり、「左:高音 右:低音」になるようにしました。こうしたほうが効果的に空間が埋まるような気がしたので、この曲においてはオーディエンス視点で進めていこうと思います。
・ピアノ
中低域の音程が多いので、右側に重心がよって聞こえてくると思います。
Ivoryは立ち上げた段階で既に良い音なので、大したことはせずとも充分に鳴ってくれますね。
ギタートラック解説
最後にギタートラックについてです。これまでに何度も言っていますが、ギターは打ち込みではなく全て演奏しています。
録音の仕方としては
「ギター」→「コンパクトエフェクター(OD)」→「アンプシミュレーター」→「オーディオインターフェース」→「DAW」
という接続で録音しています。
音作りの中核はアンプシミュレーターで、少し古い機材ですが「ElevenRack」というアンプシミュレーターを愛用しています。アンプモデルは、ロック系の王道であるマーシャルのモデリング(JCM800)をチョイスしました。
アンプを選択したら、キャビネットとマイクモデルをいろいろ試して、もっともイメージに近い音になるものを選び、あとはアンプのゲインやEQを調整して基本となる音を作ります。このあたりはベースと一緒ですね。
アンプシミュレーターの前段に繋いでいるコンパクトエフェクターはShurの「Shiba Drive RELODED」というオーバードライブです。ギタリストにとっては言わずと知れたメーカーのODですね。
これはリードトラックを演奏するときのみ、ブースターとして使用しています。バッキングトラックでは使っていません。
あとはElevenRackのメインアウトからインターフェースのインプットへ接続し、DAWに録音するだけです。ちなみに、空間系などのエフェクターは一切掛けていません。
・ギター
パンに関しては、バッキングの2トラックを左右80の位置に、リードを左30あたりに配置しています。
バッキングを左右へ振り切るとさらに派手になりますが、分離しすぎて一体感が損なわれてくるので、左右80くらいまでに収めてやるほうがバランスが良くなると思います。
まとめ
今回は各トラックの音源等の設定について解説してきました。
ご覧のとおり、私は作編曲中、EQやコンプを基本的に掛けません。理由としては、素の状態の音で各楽器のすみ分けができているアレンジを目指したほうが、最終的に良い作品として仕上がる可能性が高いと思うのです。
しかし、音色の甘さでどうしてもイメージを取りこぼしてしまいそうなときには、EQやコンプを掛けます。音色そのものがものを言うジャンルもあると思うので、そういった場合は早々にEQやコンプの処理をしたほうが作編曲も捗るでしょう。
この曲に関しては、今後ミックスの直前くらいまではこれらの音を維持して制作を進めていくと思います。
次回はサビだけのこの状態から、ワンコーラス仕上がった状態にまでもっていきたいと思います。